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1999/11/07 Last renewal 2001/08/12 
山紫水明の京都

 京都盆地が太古の湖底であった。夏の蒸し暑さや冬の底冷えは、そうした潮底の風土のもたらす宿命でもある。北と東の山々から運ばれる土砂が堆積し、地盤の隆起とともに生まれた京都盆地は、東北から西南へなだらかな斜面を形づくり、大小の河川が盆地を縫うように流れていた。遷都当時は、ずいぷん多くの川が流れていたらしく、平安京古図にも、鴨川と御室川の間に十本もの川が記されていることからも想像できよる。二条城の南に位置する神泉苑は、太古の湖の名残りでもある。

 遷都の頃は今より避かに潮底を思わせる自然が残っていたが、都京の造営により河川の整備、治水工事が行われ、大きく流路は変更された。賀茂川と高野川はこのとき整備された。現在は、東北から流れる高野川と北から流れてくる賀茂川が、出町(川合)付近で合流し、鴨川となって南下しているが、もともと高野川はずっと西南に向かって流れ、賀茂川は北から真南に流れて、両者は四条から五条で合流していたとされている。そして今の堀川が昔の賀茂川であった。昔の賀茂川は、平安京のほぼ中央部(大内裏の西側)を上賀茂神社のあたりから南へ真直ぐ貫流する川であったことがうかがえる。賀茂川を現在地で高野川と合流させてからは、もとの流路は運河としても利用できるよう改修し、堀川となった。
 「家の作りやうは 夏をむねとすべし 冬はいかなる所にもすまる あつき比 わろき住居はたへがたき事なり ふかき水は涼しげなし 浅くてながれたる遥にすずし こまかなる物を見るに 遣戸は蔀のまよりもあかし 天井の高きは 冬さむく 燈くらし」
 兼好法師は、京の夏の耐え難さを訴えているが、こうした湖底の風土は反面、水を恵み与えてくれた。貴族たちは、そうした泉を求めて屋敷を構え、庭を築いた。庭には池を掘り、違水(やりみず)を引いた。平安時代の庭造りの伝書『作庭紀』にも、遣水の仕様についてまことに心細かな注意が述べられている。そのなかには、兼好法師の述ぺた流れる水の効果を活用したものがある。流れのしぷきや水音にまで心を配りながら流れを作り、石が組まれ、桔硬、女郎花、われもこう、ぎぼうしなど、大きくはびこらない前栽を植えるべしとされていた。前栽のなかにはわざわざ虫を放って、その声に耳を傾ける人も多かったという。

 豊富な地下水による良質な水脈は、数多の名井をもたらした。多くはすでに枯れてはいるが、幾つかの名井は今でも残さ利用されている。こうした名水は、京都特色の産業と文化を育て、堀川船いを走る水脈の六条佐女牛井では、茶の湯の祖と仰がれる村田珠光が、この近くに庵を結んだと伝えられ、千利休をはじめ多くの茶人が、わざわざこの名水を汲みに通ったといわれる。京都の茶家は、いずれもこの水脈の上に居を構え、表千家、裏千家、武者小路千家、藪内家がある。そうした位置から、江戸時代には三千家を「上流」、藪内家を「下流」とも呼んでいた。良質の水が茶の味わいを高めることは事実であり、豊かな名水が、京都の茶の湯を盛んにしたことは否めない。また堀川には友禅染があり、その水質は染色の水洗いに最適であった。また京都の市中には醸造業も多く、それらは堀川沿いに目立った分布をみせていた。近年はほとんど廃業してしまったが、水の産業が名水の水脈に結ぴついていたことは、明らかな事実であった。
 表千家不審庵
 裏千家今日庵
 薮ノ内燕庵と織部
 修学院離宮
 正伝寺
 仙洞御所
 湖底の風土が展開する四季の変化は、人々に繊細な感覚と自然を愛する心を育てることになり、こうした中から洗練された京の町家や社寺、京都人の暮し振りを築き上げた。「山紫水明」と謳われる四周に連なる美しい山河は、日本の伝統を代表する生活文化や住まいを形づくってきた。  


山紫水明の京都
 

 
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