ぼうけんき
『短編』

2010/05/08UP


第9.1話 ひなまつり


「いいこと考えた!」

アインが狐尻尾をぴょこぴょこ振りながら台所に飛び込んで来る。

「却下」

朝食の準備をしていたツヴァイは静かに言った。

「アインが何か企むと大抵はお尻を叩かれる破目になるんだもん」

戸棚から食器を出していたドーリーも同意する。

流石に懲りているらしい。

「それより、部屋から出る時はちゃんとズボンを穿けって言われてるだろ?」

ツヴァイはアインの下半身を眺めてやれやれという表情をした。

「尻尾が出てるとズボンは邪魔なんだよ!」

「じゃあ、引っ込めろってば」

「アイン・・・そのパジャマって裾が短いよね?」

「成長期だから・・・くしゅっ」

下半身に何も着ていなかった少年はくしゃみをした。



「お師匠様が留守だからって気を抜き過ぎ」

朝食を口に運びながらツヴァイがお説教を始める。

「それで、『いいこと』って何?」

ドーリーがウサ耳をぴょこぴょこさせながら訊ねた。

「今日は3月3日だろ?遠い国では夫婦の人形を飾って結婚できるようにお祈りする日なんだって」

「ああ、あれか・・・何年か前に流行ったな」

「そうなの?ぼく知らない」

「で、何?姫様と結婚できるように祈るの?」

ツヴァイは少し冷たく言い放った。

「俺じゃなくって、お師匠様」



結局、その器用さと人の良さから小さな人形をこちょこちょと作り始めるツヴァイ。

「ドーリー、ちょっとそれ取って。アインは邪魔だから手伝うな」

「でも、お義母さんに結婚願望なんかあるのかなあ?」

「お師匠様だって女の子だから当然にあるよ、そりゃあ」

「そうかなあ?女性としての幸せより仕事を選んだ人って感じだけど」

「だって勿体無いじゃないか、あんなに美人なのに」

がた。

ツヴァイとドーリーが、まじまじとアインの顔を見詰める。

「え?俺なんか変なこと言った?」

(アインって意外と気が多いんだ)

(姫様が好きなんじゃなくって年上が好きだったんだ)



「完成っ!」

1日を費やした大作が完成した頃には日は完全に落ちていた。

「作ったのはツヴァイだけどね」

「俺も頑張ったよ・・・手伝いたいのを我慢したし」

「・・・お師匠様って今日中に帰って来るのかなあ?」



翌朝。

「ほら、やっぱりアインの計画に乗るとロクなことにならない」

ツヴァイが分厚い本を机に置きながら溜息をつく。

3人は外出禁止で勉強を命じられた。

「ツヴァイだって知らなかったじゃないか!」

「その日のうちに片付けないと結婚できなくなるって言われてるなんてね」



お師匠様は何故か上機嫌で珍しく料理なんぞ作って・・・結局は出前を注文した。

(了)

第3.2話『けっかい』

「なんで俺がこんなこと・・・」

アインは大きなたらいに入れたシーツを足でじゃぶじゃぶと踏みながら愚痴を溢した。

「それはアインがおねしょなんかするから」

中ぐらいのたらいでシャツを洗っていたツヴァイが答える。

「ツヴァイとドーリーだったやっただろ?」

「だから僕たちも洗濯させられてる」

小さなたらいで下着を洗っていたドーリーが叫ぶ。

「これ、黄色い染みが取れないよ〜っ」

夜はそれぞれの部屋があるのに1つのベッドで一緒に寝る習性のある3人だが何故か今朝は盛大に3人同時にやらかしてしまいお師匠様に洗濯を命じられたのだ。

「普段はおねしょなんかしないのに・・・お化けの話をしたからかなあ?」

アインは首を傾げる。

「いや、してるよ」

「うん、してる」

ツヴァイとドーリーが反論する。

「いつもはドーリーが再生魔法で何とかしてる」

「うん、アインはたまにやってるよ。自分じゃ気がついてないだけで」

そう、お師匠様が怒ったのはおねしょをしたことではなく誤魔化そうとしたことだったのだ。

いつもはバレなのに今日はバレてしまった。

アインは少しだけ年長者としてのプライドが壊れた思いだった。

だが顔を赤くしながらも気が付いた。

「でも、ツヴァイとドーリーもやったよね?俺だけじゃなくって。

 やっぱり、お化けが悪かったのかなあ?」

話は昨晩に遡る。

何故かベッドの中で怪談話を始めてしまった3人。

この世界には普通に霊や怪物がいたりする。

なので、3人は勝手に震え上がった。

「ドーリー〜っ、除霊の魔法って使える?」

「ごめん、使えない」

「僧侶系の初歩魔法だろ?」

「だってぼくは僧侶の修行なんかしてないもん」

そうなのだ。ドーリーの治癒回復魔法は精霊魔法の一種なのだ。

「ツヴァイは〜っ?器用なんだから使えたりしない?」

「結界魔法なら・・・」

「結界?そ、それ名案!」

魔法で張った結界には物理的な存在しか入り込めない。

即ち、幽霊をシャットアウトできる。

「いい?せーので同時に呪文を唱えるんだからね?」

アインがツヴァイとドーリーに念を押す。

3人で協力すれば強い結界が張れる筈だ。

※※※※※

「・・・俺たちの結界じゃ弱過ぎるのかなあ?」

「さあ?でも、おねしょさせる幽霊なんて聞いたことないけど」

「子供にイタズラする幽霊ならいるって話だよ」

※※※※※

お師匠様は少し喜んでいた。

いつもの日課、時々忘れるけど、で眠っている3人に朝までおしっこを我慢できる呪文を唱えようとしたら結界が張られており呪文が跳ね返されたのだ。

「あいつも、凄い結界を張れるようになったもんだ」

(了)

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