ぼうけんき
第8話『ドラゴン退治の後始末

2010/05/08UP


ぺちぺち

う、う〜ん・・・

ぺちぺち

暗黒に捕らわれていた意識が戻って来る。

「あ、気が付いた」

ツヴァイが心配そうにアインを見上げていた。

確か、俺がドラゴンに化けてツヴァイが俺に化けて・・・

ばちっ!

違和感。

身体が重い。

「がうがうがう・・・」

???

声が出ない。

「アイン、なんとか元に戻れない?」

あ、まだ竜に変身したままなんだ俺。

頭の中で必死に元の姿を想像するのだが一向に元に戻らない。

「がうがうがう」

「アイン、それドラゴン語にすらなってない」

三文芝居。

アインの化けた竜をツヴァイの化けたアインが退治する。

多分、バレバレ。

でもそれでなんとか許して貰おうという算段だった。

如何にドラゴンと言えども赤ん坊の頃は弱い。

誤算だった。

リハーサルでツヴァイが殴っただけで気絶するとは思っていなかった。

「もしかして元に戻れないの?」

「がうがうがう」

「頭を殴っちゃったからかなあ?」

「がうがうがう」

ドラゴンのアインが全身を震わせて抗議する。

「このまま飼っちゃえばいいんだよ。ドラゴンって何を食べるのかな?」

ドーリーが竜の頭にちょこんと乗っている。

「ほーら、ドラゴンライダー」

ぶんぶんぶん

頭を振って少年を地面に落とす。

くるっ

身軽に身体を反転させて足から着地。

「へえ、意外に身が軽いんだ」

「これでも森育ちだから」

「ってそんなのんきな場合じゃないよ。お師匠様を呼んで来なくちゃ」

「でも、お義母さんは姫様を呼びに行ってるよ?回復呪文を唱えたらなんとかならないかな?」

「それならアインが目を回した時に使えよっ!」

「まあそれは・・・≧Ν÷〇☆〆・・・」

ドーリーは回復呪文を唱える。

いや、強力な蘇生魔法だ。

それこそバラバラになったドラゴンでも復活しそうなぐらいに。

ばさっ

「うわっ?飛んだ?」

「え?飛べないんじゃなかった?なんで?」

ツヴァイとドーリーは呆然と空を見上げる。

「どういうことなんだよ?」

「ぼくにだって分からないよ」

赤毛の少年は人化した魔剣に声を掛ける。

「剣に戻って、アインを追い掛けるから」

「分かりました、でもマスターを攻撃することはできませんからそのおつもりで」

微かな煙と共に巨大な魔剣に変わる。

軽々と持ち上げて背中の翼で宙に浮かぶツヴァイ。

「うわっ、凄いですね。ヒルダを軽々と扱える人なんて殆どいないのに」

淫獣のみーちゃんが驚嘆する。

ツヴァイは力持ちな上に剣も使える。

RPGで言うなら剣も魔法も使える万能型。
 
しかも現時点においてはアインもドーリーよりも確実にレベルが上で器用さも群を抜いている。

つまり、ゲームバランスを崩しかねない危険なキャラなのである。

「みーちゃんも一緒に行きます!」

「来るな!!」

「酷い・・・」

「僕が君を装着しても変な気分になって体力を消耗するだけだろ」

みーちゃんとドーリーは大慌てで飛び去るツヴァイを見送った。

「ツヴァイの弱点は時々ひょいっと間が抜けることだよね」

「そうなんですか?」

みーちゃんとヒルダはこの宿に来てからお師匠様の魔法で人の姿を得たのでツヴァイが家事担当だということすら知らない。

「うん、お義母さんに頼んで召還魔法を使って貰えば早いのに。今は服なんか着てないだろうから何の問題もないよ」

金髪の少年は気配に気付いた。

「思い付かなかった・・・賢いなドーリー・・・」

「お義母さん?」

お師匠様はドーリーの髪の毛をクシャクシャとすると口に指を突っ込んでうにうにと引き伸ばした。

「ひゃにふんの」

「特殊な魔法体質の相手に回復魔法や強化魔法をかけるとどうなるか知ってるな?」

「あ・・・」

そうなのだ。

ドラゴンに変身したアインはどう考えても魔法的に不安定な状態にある。

何も考えずに最大級の蘇生魔法を被せてしまった。

カリカリと頭を掻きながら大魔法使いは考えた。

「多分、ドラゴンとしての部分だけが成長したんだろうな」

「召喚魔法で呼べないの?」

「あそこまでデカいと無理だ」

「ど、どうしよう・・・」

その頃、ツヴァイは蝙蝠のような羽根で温泉宿の上空を飛んでいた。

(なんとかしなくっちゃ・・・でもどうやって?僕じゃ竜になんか勝てっこないし)

その心を手にした魔剣ヒルデガルドが読む。

(手にしておられるのは竜殺しの魔剣ですから若い竜ぐらい問題なく倒せます)

念話。

(そ、そうだっけ・・・)

(ツヴァイさんはマスターのことが好きなんですか?)

ヒルダはツヴァイの心を読んでいた。

その複雑な心の動きを。

(・・・・・・)

答えられない、正解が分からない。

「お〜い!」

小さな影が手を振って上空のツヴァイを呼ぶ。

幼児に猫耳と猫尻尾が生えた姿、フィスだ。

無視!

ツヴァイもフィスのことが気に入らない。

可愛い姿をしているとは思う。

姫様が気に入るのも分からないでもない。

だが、生意気な中身は嫌いだ。

「待てってば」

フィスは唐突にツヴァイの背中に乗っていた。
 
転移魔法だ。

「アインを追ってるんなら手伝う」

「黙れ!それに勝手に背中に乗るな」

ツヴァイはフィスを振り落とす。

だがフィスは浮遊魔法でフワフワと浮かんでいる。

ぐいっ。

ズボンの裾から飛び出しているツヴァイの尻尾が引っ張られる。

「まあ、落ち着けって・・・尻尾って引っ張るのに便利だな」

「ぶら下がるな!クソガキ!!」

ぽん。

フィスの姿が軽い煙に包まれる。

猫耳に猫尻尾の幼い少年の姿が完全な猫に変わる。

ひょい。

猫姿のフィスは飛んでいるツヴァイの肩に飛び乗る。

「いちいち挑発に乗って精神を乱されてたら駄目だニャア」

「・・・その語尾のニャアってのはなんだ?」

「話し方に特徴をつけないとキャラの区別ができなくなるのでこうしてみたのニャア」

「さっきまで普通に話してたのに」

「それより、その魔剣ならアインの位置が分かるんじゃないのかニャア」

「ヒルダ?分かるの?」

(分かります。マスターの場所ぐらい)

「そんなことは早く言って!!」

(聞かれませんでしたから)

「で、今は何処に?」

(元の場所の近く、随分と反応が小さくなってます)



姫様は目の前に降って来た物体を嬉しそうに摘み上げる。

「アイン?どうしたのそんなに縮んじゃって」

見上げるとバタバタと飛んでくるコウモリのような姿が見えた。

「姫様、大丈夫ですかニャア」

ツヴァイの肩から猫がヒラリと舞い降りる。

「フィス?」

女の子は掌に乗る程の大きさになってしまったアインを放り投げると猫を抱き上げる。

「酷いなあ」

近くに降り立ったツヴァイがアインを受け止める。

ぽん。

フィスは再び薄煙を発してネコ耳&ネコ尻尾の男の子の姿に戻る。

そして、ギュッと姫様に抱きついた。

「・・・フィス、その語尾のニャアっての不自然よ」

「キャラが増え過ぎて区別できないと天の声がニャア」

「心配してくれてありがとう」

 ぎゅっ。

「こら〜っ、俺の姫様に!」

アインが抗議する。

ずいっ。

フィスは姫様から離れると屈んだ姿勢でアインを睨む。

今はフィスの方がずっと大きい。

「そんな小さいアインさんに何を言われても恐くないニャア」

「ドラゴンを退治したんだから俺が婚約者だっ!」

それを聞いて姫様が口を開く。

「え?いつ?」

「ひ、酷いです。姫様・・・俺は必死で・・・ツヴァイも何とか言ってよ」

「・・・倒してないよ」

「まあ、よくよく考えてみたらドラゴンを倒せなんて無茶なこと言っちゃったこっちも悪かったんだし、温泉竜を倒されたら観光資源が無くなるしね。今回の話は無かったってことで」

「姫様は我侭だニャア」

「フィス。一緒にお風呂に入ってから帰ろ」

「ズルイっ、姫様、俺も俺も」

「アイン、その身体でお風呂に入ったら確実に溺れると思うよ」

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