ぼうけんき
第7話後編『ドラゴン退治

2005/08/05UP・2010/04/24修正


「やっぽー、アイン元気?」

「ひ、姫様?」

アインは慌てて濡れたパンツを手で隠す。

ツヴァイとドーリーも同様だ。

しかし、3人分の巨大な世界地図が描かれた布団はどうにもならない。

「あ、あの・・・ドラゴン退治の件は・・・」

「ぷぷぷ、フィス、お兄ちゃん達、大きななりしておねしょだって」

ひょこっ。

姫様の陰から1人の少年が姿を見せる。
 
ドーリーよりも更に小さい男の子。

猫耳に猫尻尾の猫族の子供だ。

姫様にしっかりと抱きついてアインをニヤニヤと勝ち誇ったような表情で見上げている。

「その子は?」

わなわなと震えながらアインが訊ねる。

「フィスっていうの。今日から騎士見習になったからアインの後輩ね」

「で・・・なんで姫様に抱きついてるんですか?」

「だって騎士団で一番小さいから可愛いんだもん!」

がーん!

「アインもさっさとドラゴンを退治しないとフィスに先を越されちゃうわよ。

フィスは小さいけれど剣も魔法も使えるから来月には正式な騎士にして専属の護衛にするから」

がび〜ん!!

い、1日で立場が・・・

「フィス、おねしょしちゃったイケナイお兄ちゃん達のお尻をペンペンしてあげなさい」

「は〜い!」

フィスはニタニタした子供らしからぬ笑顔で3人を見た。

「じゃあ、順番に叩きますからアインさんからお尻を出して膝に乗ってくださいますか?」

屈辱のあまりアインは動けない。

「今更、恥ずかしがることないですよ。女装して鞭でお尻を叩かれてるところを姫様に見られた癖に」

追い討ち。

「それに竜を退治できないから3日後にはお婿に行けない身体になるんでしょ?

だったら姫様のことを考えても仕方ないと思います」

アインは怒りで真っ赤になる。

「こ、こ、この野郎・・・」

「姫様、アインさんは反省してないようなので、おねしょしたイケナイ個所にお灸を据えるべきだと思います」

「ふざけんな!」

飛び掛ろうとするアインに対してフィスは涼しい顔で呪文を唱える。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

かちん。

体の自由が奪われ、声すら出すことができない。

ズル。

パンツを脱がされても抵抗できない。

「なんだ、これなら女になっても大差無いじゃないですか」

ピンと指で弾く。

「じゃあ、お灸を据えますね」

フィスは小声で呪文を唱えると空中から一塊の艾と火の点いた線香を取り出した。

アインの顔が恐怖と恥辱に歪む。

「フィス、もうその辺にしときなさい」

意外なことに姫様が制止する。

「・・・分かりました」

フィスは渋々ながらそれに応じる。

「エヴァは弟子に甘いってことが分かったわ」

「・・・面目次第も御座いません」

固まったままのアインとそれを見守っていたツヴァイとドーリーは何か言いたげだ。

「明日まで・・・」

「はっ?」

「明日までにドラゴンを倒せなかったらフィスにお仕置きの続きをさせるから、更にアインはフィスの付き人に降格」

「ツヴァイとドーリーの件は?」

「連帯責任!・・・は可哀相だからフィスにお仕置きさせるだけで勘弁してあげる」

姫様は愛しげに猫族の少年を肩車すると去って行った。
 
恋人や愛玩動物よりは弟に近い感情を抱いているのかもしれない。

「・・・だそうだ」

お師匠様は3人を振り返った。

「ぜーったいに竜を倒す!そしてあの生意気なガキのお尻を俺の方がペンペンして泣かしてやる!!」

アインはキツネの耳と尻尾を出して燃えている。

「まずは服を着ろってば」

ツヴァイがアインに服を投げて渡す。

「でも、竜さんを倒すのはちょっと・・・良い人だし」

ドーリーは気が乗らないようだ。

「竜は人じゃない!」

アインは早くも魔剣ヒルデガルドを召還してミッドガルドの尻尾を装着してダブル尻尾だ。

「・・・人なんだよ、人に化けてノビちゃったアインをここまで運んでくれたんだよ」

「今朝のおねしょも『男の子なんだからそれぐらい元気な方がいい』って許してくれたんだよ。アレやったのアインだろ?」

「だよね、またやっちゃったから・・・恩を仇で返すのはちょっと気が引ける」

「アインは知らないかもしれないけどこの宿の経営者なんだよ、竜さんって」

「いいよ!俺1人で退治するから!!」

アインは身の丈程もある巨大な魔剣を抱えて走り出した。

2本の尻尾が下穿きの裾から飛び出て、ぴょこぴょこと揺れているのでお世辞にも格好が良いとは言い難い。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

お師匠様が魔法を唱える。

きゅうっ、どて

アインが昏倒して床に倒れる。

「倒せる相手とも思えんが宿の竜を倒すのは色々とヤバい」

ドーリーが手を挙げる。

「はいっ!じゃあ別の竜を探す。できれば小さいのを」

「竜なんてそうそうゴロゴロしてるもんじゃないぞ。わたしですらまだ10匹も見たことが無い」

竜の数は極端に少ない。
存在すればそれだけで町興しの材料になるぐらいで実はこの温泉も竜に頼んで来て貰ったという経緯がある。

ツヴァイが手を挙げる。

「じゃあ・・・気は進まないけど退治させて貰ってから呪文で復活させるってのはどうですか?
ドーリーとお師匠様ならドラゴンの復活だってできるでしょ?」

「それはできるが・・・あれだけの大きさのドラゴンって子供が魔剣でドツいたぐらいで退治できるもんじゃないしなあ・・・あの魔剣ならアインでも若いドラゴンぐらいなら楽勝な筈なんだが」

「はいはいはい、じゃあぼくかツヴァイがドラゴンに変身するってのは?」

「大きさが違いすぎてわたしでも無理だ・・・ん?そういや・・・」



「すいません、お手間は取らせませんので」

お師匠様が頭を下げて温泉竜と勝負して貰えることになった。

どろん。

人化する。

その辺りに普通にいそうなおじさんだ。

「それじゃ、ジャンケンでアインはグーを出しますからチョキを出してください」

「お師匠様・・・思いっきり詐欺勝負なんですけどこんなんで姫様は納得するんですか?」

「いいからさっさとやれ、ご主人は忙しいんだから」

グー対チョキ

「いやあ、負けた負けた・・・じゃあ仕事があるからこれで」

どろん。

「・・・お師匠様、こんなんで良いんですか?」

ボカ

お師匠様はアインの頭をはたく。

「いいわけないだろ。本番はこれからだ。アイン、竜に化けろ」

「は?無理、無理!変化の術なんて使えないのに」

ふさふさ

「その尻尾が何の為に付いてるのか知ってるか?」


ドーリーの角は情報を精霊からの情報を得るアンテナの役割を果たしている。

ツヴァイの羽根は空を飛ぶためのもの。

アインの尻尾は変身する為にあるのだ。

「じゃあ?ドラゴンにも変身できる?お師匠様みたいに凄い魔法使いにもできないのに?」

「一度、負かしたことのある種族ならな」

「・・・インチキジャンケンで構わないんだ」

「まあ、神様のルールって割りとアバウトだから」

ツヴァイとドーリーが顔を見合わせる。

ぼん。

一筋の煙と共にアインの姿は消え、そこには若そうなドラゴンの姿があった。

「がうがう・・・」

「喋れないの?」

ドーリーが鱗をぺたぺたと触りながら噂の逆鱗とやらを探している。

「赤ん坊みたいなもんだからな。ある程度は練習とかしないと火を吐いたり飛んだりもできない。・・・で、これをアインに化けたツヴァイが殴り倒して、後でわたしとドーリーで復活させる」

「がうがう、がうがう、がうがう・・・」

「人間語以外での抗議は受け付けないからそのつもりで。

あと、元に戻れないように魔力を抑えるぐらいは簡単なんだからな」

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