ぼうけんき
第7話前編『ドラゴン登場のこと

2005/07/10UP・2010/04/24修正


『関係者以外立入禁止』

大浴場の側の大きな扉。

キイ〜ッ

「こ、こんにちは」

大きな扉に付けられた猫扉ならぬ人扉を恐る恐る開いたアインが声を掛ける。

頭には三角のキツネ耳、手には巨大な魔剣を抱え、ぶかぶかのズボンの裾からは2本のキツネ尻尾が顔を出している。

淫獣みーちゃんの変化した尻尾をお尻の穴に挿れていないと怪力が発揮できず魔剣ヒルデガルドをまともに扱えない。

みーちゃんとヒルダが同時に発動した状態では魔法無効結界が形成されてしまい一緒にいるツヴァイとドーリーの魔法が使えない。

「なんだ?坊主達、危ないから入ってくるんじゃない」

巨大な竜が炎を吐いて冷泉を温めている。

その温められたお湯が浴場に流れ込んでいるのだ。

「大きいね、それに強そう」

ドーリーが唖然として見上げながら呟く。

「人化してる時は普通のおじさんに見えたのになあ」

ツヴァイがペコリと頭を下げて挨拶する。

「ああ、今朝の坊主達か、ここは火を扱ってるし火遊びしたら今夜もやらかしちまうぞ」

気まずい。

「あの、俺達、竜を退治して来いって言われて・・・」

ギロっ。

ひい、睨まれるとマジで怖い。

「冒険ごっこなら他所でやってくれ」

ぽいっ

温泉竜はアインのシャツの襟を爪で摘むと外に放り出した。

「相手にされてないね」

ドーリーが溜息をつく。

「そりゃあ、温泉宿の中で子供が3人だもん」

ツヴァイが振り向くと幾人もの湯治客が通り過ぎて行った。

アインは・・・

人化した淫獣ミッドガルドことみーちゃんと魔剣ヒルデガルドことヒルダに遊ばれていた。

「ご主人様可哀想・・・みーちゃんが頭をなでなでしてあげるから元気だしてね」

「マスター・・・(ぎゅっと無言で抱きしめる)」

「俺を子供扱いしないでてったら」

「お子ちゃまですよ。むぎゅっ(パンツの中に手を入れて掴んでいるらしい)」

「(小声で)まだツルツル」

「必要になったら呼ぶから帰っててっ、≧Ν÷〇☆〆・・・」

呪文の声が消えると同時にアイテム2人も異次元へと姿を消す。

普段は異次元に封印されていて召喚すると出て来るのだ。

「・・・ってドーリーも俺の尻尾をもふもふして遊ぶな!」

「だってアインのが一番ふさふさしてて気持ちいいんだもん」

「尻尾が感じるの知ってるだろ?ドーリーやツヴァイだって同じなのに」

「まあ、アイン程じゃないんだけどね」

「だったら余計に触るなよ」

じゃれあう2人を眺めながらツヴァイは思った。

(毛が生えてなくて皮膚が剥き出しな分だけ僕のが一番感じるんだけどな)

「そう言えばここのドラゴンさんって赤の邪竜の末裔なんだってね」

「なに?それ?」

ツヴァイとドーリーが少し呆れる。

「ぼくらの中で一番年上なのに知らないの?」

3人の年齢はアイン、ツヴァイ、ドーリーの順で1歳つづつ違う。

「みーちゃんが一番下で0歳、一番上はヒルダの80歳なんだよ」

異次元から声がする。

「・・・聞こえてる?封印されてるのに?」

「はい、聞こえてるし、見えてるし、ご主人様の考えてることも分かるし、こうして話すこともできます」

ドーリーが微笑みながらアインを眺める。

「アイン、再封印へたくそ」


おとぎばなし

むかしむかし、あるところにわるいりゅうがいました。

(中略)

そしてゆうしゃはりゅうをたおしておうさまになりました。

おわり。


「というお話」

ツヴァイがアインに優しく話して聞かせる。

「お兄ちゃんと弟みたい」

見ていたドーリーが感想を述べる。

「俺が一番年上なのに〜っ」

ツヴァイが黒髪をなでなでする。

「でも精神年齢と行動パターンは一番年下」

すくっ

「そ、そんなことより・・・」

ばたん。

「あ、のぼせちゃったみたい」

「ぼくらは昨日、女湯で背中流しさせられて慣れちゃったけどアインは慣れてないからなあ」

「風呂に浸かりながらドラゴン退治の作戦を考えることに無理があった気がする」

しかもその風呂を沸かしているのは退治対象のドラゴンである。


「まったく、お前らときたら・・・」

お師匠様は頭を抱えた。

「ドラゴン退治とか言ってた癖に部屋で昼寝してるし」

アインの意識が戻って来る。

冷たい。

やっちゃった?

男に戻ってから楽なので穿いている宿の大きなパンツが濡れているのが分かる。

それも盛大に。

「アインを布団に寝かせたらつい一緒に寝てしまいました」

「ごめんなさい」

ツヴァイとドーリーもパンツを大きく濡らしている。

「傷つくと思ってナイショにしてたんだが・・・お前らが寝る時におしっこを我慢できる魔法を掛けてたんだ」

「えっ?じゃあ?」

アインが飛び起きる。

「ツヴァイとドーリーもまだおねしょしてるんだ!」

「嬉しそうに言うな嬉しそうにっ!頻度から言えば一番年上の筈のお前が一番酷いんだからな」

「でも2人して俺のこと散々からかったのに」

はあ。

お師匠様は溜息をつく。

「まさか3人揃ってやらかすとは思わなかった。

それも旅館の同じ布団で。

・・・なんとか処理するから風呂にでも入って来い。

この上、風邪まで引かれちゃ堪らないからな」

ガチャ

3人の男の子が開く前に扉は開いた。

「やっほー、アイン元気?」

「ひ、姫様?」

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