ぼうけんき
第0話その1『ヨン兄ちゃん旅立てずの巻』

2005/06/01UP・2010/04/24修正


RPGのようなファンタジーの世界。
そこに3人のショタっ子がおりました。
 
それは冒険者ですらない彼らの無軌道な冒険の物語。
が、まだ始まる前のお話だったりします。


ばった〜ん!

若い男が何かに足を取られて豪快にコケる。
顔面強打。
見ると2本の杭が打ち込まれその間に紐が張られている。
庭の通り道に悪戯されたのだ。

「ははは、ドーリー、イタズラが過ぎるぞ」

泥と血で汚れ疵だらけにも係わらずまだ少し幼さの残る男は笑っている。

「そんなとこにいると危ないぞ」

視線を樹の上に隠れている男の子に向ける。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

ふわり

男の子の体が宙に浮く。

「うわわわわわ・・・」

ぽそっ
 
受け止められたのは、金色の髪に碧の瞳、それに少し白い肌で女の子のような男の子。

受け止めたのも同じく金髪碧眼の青年だが肌は日に焼けて褐色だ。

兄弟には見えない。

「捕まえた、ドーリーは悪戯ばっかりの悪い子だな」

ぽんぽんと軽く頭を叩く。

「ヨン、あんまりドーリーを甘やかすな、お尻を叩くからこっちに寄越せ」

そう言いながら妙齢の女性が歩いてくる。

「お師匠様、まだ子供ですから、ね、ね、ね」

「じゃあ、ヨンが後で叱っておけ」

彼女は友人の死で養子にしたドーリーをどう扱ったらいいのか分からない。

面倒を見ているのは直弟子のヨンだ。

「・・・おばちゃん、怖い」

「こらっ!ママだろママ」

ヨンは一瞬だけ怖い表情をしたが笑いながら言った。

「ちょっとおしおきだな、お風呂で洗ってやる」

「やだ!」

ドーリーはお風呂が嫌いというわけではないのだが身体を洗われるのが苦手なのだ。

「だめ、可愛いおちんちんまで念入りに洗ってやる」

10数分後。
 
ドーリーは庭に干されていた。

「恥ずかしいよ・・・」

「大丈夫、誰も来ないって。これぐらいしないとおしおきにならないだろ?」

ヨンは片目をつぶって見せた。

ぶかぶかのシャツを着せられたドーリーは袖に通された竿で物干し台に掛けられている。

隣りでは同じようにシャツが風に揺れていた。

パンツも穿かせてもらえず敏感な股間で空気の気配を感じながらドーリーはちょっとだけ反省した。


数日後、ヨンとドーリーは街中を歩いていた。
 
お師匠様にお使いを頼まれたのはヨンだけだがドーリーは家に居られなかった。

ヨンを落とすつもりだった自信作の落とし穴にお師匠様が落ちてしまったからだ。

「帰ったら一緒に謝ってやるからな」

「うんっ!ヨン兄ちゃん大好きっ」

やがて二人は大きいが古びている館の玄関にたどり着いた。

「ごめんくださーい、エヴァの使いの者ですが!」

ぱたぱたぱたぱた

誰か走ってくる音が聞こえる。

ぎい

「そのままでお待ちください」

大き過ぎる扉から顔を覗かせたのはポニーテールの髪に大きなリボンが似合う赤毛の少女だった。

待つこと数分。

「中に入れてくれてもいいのに」

ドーリーが不満を漏らす。

「成り上がり者の弟子なんか家に入れたくないんだよ。キュルノアイル家は凄い名家だから」

ヨンがドーリーの頭を撫でながら小声で応える。

カツカツカツ

神経質そうな足音と共に偉そうな態度の初老の男性が歩いてきた。

「待たせたな、これが頼まれていた書物だ」

ずいっと剥き出しの古い本を差し出す。

バタン!

用件が済んだらさっさと帰れということらしい。

「・・・帰るか」

ぱたぱたぱたぱた

先程の赤毛の少女が小走りで近づいてくる。

短いスカートのメイド服にフリルがヒラヒラしたエプロンという格好がよく似合っている。

「この家のメイドさん?まだ小さいのに」

ヨンが屈んで目線を合わせながら話し掛ける。

「いえ、僕はこの家の末の息子でツヴァイって言います。

うちメイドなんていないんですけど来客がある時は僕がメイドの振りして見栄を張るんです」

言いながら大きな白いリボンを外してポニーテールを解く。

「僕、エヴァさんの弟子になりたいんです!!」

少年は目をキラキラさせながらヨンを見詰めた。

「悪いけど、先生は子供の弟子は取らないと思うよ」

ヨンは頭を掻きながらツヴァイを見詰めた。

多くの国から宮廷魔法使いにと請われ、多くの学院から招きを受ける天才魔法使い。
その上、美人の女性で更にオーガーを素手で殴り倒す格闘技の達人。
エヴァに憧れて弟子入りを志願する者は後を絶たない。
ちなみにヨンが弟子にしてもらったのは料理が得意だったからという理由だ。

ぎゅっ。

しかし、ツヴァイはヨンを掴んで離さない。

「・・・連れて行ってください、・・・その・・・お父さんに攻撃魔法をぶちかましちゃって・・・」

「仕方無い、ほとぼりが冷めるまで一緒においで」

「はいっ!」



「で?キュルノアイル家の末息子を連れてきたわけだ」

お師匠様は呆れた顔で言った。

「はい・・・」

「ところで、そのツヴァイとやらの姿が見えなくてドーリーが増えてるのはどういうわけかな?」

「さあ?ちょっと目を離した隙にこんなことに・・・ツヴァイくんが化けたんだと思うんですが」

目の前には双子以上にそっくりな二人の男の子が笑いながら立っている。

「なるほど、ドーリーの姿なら追い返されないか。子供の考えにしては上出来だな。≧Ν÷〇☆〆・・・」

お師匠様は呪文を唱えた。

かちん。

ふたりのドーリーの動きが固まる。

「見分けるのも面倒だ。そのまま固まってろ、そのうちに変身呪文の効力も切れるだろ」

「お師匠様、ちょっとそれは手抜きです、見分けて貰えなかったドーリーが傷つきます」

「いいんだ、ドーリーには落とし穴のおしおきが必要だし、親に攻撃呪文を使うような子にもおしおきが必要だ」

「それはそうですが・・・」

「それより、パドルだったっけ子供のお尻を叩く棒、あれを買ってきてくれないか?」

「どうするんですか?そんなもの」

「用途は1つしかないだろ。ここに叩かれるべき子供が二人もいるし」

固まっているドーリー達に冷や汗が流れる。



「なあドーリー、エヴァさんっていつもああなの?」

ツヴァイは痛くてズボンもパンツも下ろせないでいるお尻を上に向けて仰向けにベッドに寝転びながら横を向いて質問した。

「今まではあまり手は出なかったんだけど・・・ちょっと考え方を改めたみたい」

ドーリーもツヴァイと同じくお尻が真っ赤に腫れている。

ばたん。

お師匠様がヨンを従えて入ってきた。

「ツヴァイ、弟子入りしたら何かある度におしおきするが構わないか?」

「構いません!うちで家事をさせられてるよりずっとマシです。

僕は実力のある人に教えてもらいたんです」

「ほう、ツヴァイは家事が得意なのか(ニヤリ)」

「お母さんが死んでから僕と5番目の兄ちゃんの仕事でしたから・・・」

「ヨン!二人を風呂で洗ってから治癒魔法をかけといてやれ、ちょっと出てくる」

「えっと?何処へ?」

「キュルノアイル家だ、息子を住み込みの弟子にしたぞって報告してくる。

捜索願でも出されて誘拐犯にされたくないからな」

この時、ツヴァイはお師匠様は優しいと感じた。

治癒魔法が先なら風呂場で激痛を感じなくて済んだのだと気付いたのは随分先のことだった。




「で、僕は魔法使いの弟子の筈ですよね?」

ツヴァイは長かった髪を男の子らしく切り落として格好もそれらしくしている。

ドーリーよりも女の子っぽく見えるのが嫌だったらしい。

「だな、ツヴァイは本当に料理が得意だな」

隣りで野菜を刻んでいるヨンが応える。

「なんで僕は料理なんかしてるんでしょうか?」

「昼飯の時間だからじゃないかな?」

「そうそう、早くしてよ俺、ハラペコなんだからさ」

背後の食卓から会話に参加した声がある。

黒髪に黒い瞳の少年。

「・・・君は?」

少年はツヴァイが皿に盛り付けたばかりの料理をつまみ食いしながら答える。

「騎士見習のアイン」

「なんでここにいるの?」

「騎士団長からエヴァって人のところで読み書きとか習って来いって言われた」

ヨンは頭を抱えた。

アインの噂は聞いていた。

騎士団の問題児。

騎士の見習いになることは誰にでもできる。
だが殆どの者は3日と持たずに辞めることになる。
稀にアインのような幼い少年が門を叩くこともあるが断られることはない。
普通なら半日と経たずに逃げ出す破目になるのだがアインは違った。
何故か、騎士連中にモテモテだったのだ。
『魅了』の魔法体質だという噂すらあった。
ヤバイというので騎士団長が自室に寝泊りさせていたのだがそれが却って悪い噂の元になった。

 ぎい。

お師匠様がドーリーを従えて台所に入ってくる。

「貸せ!」

ばかん!!

ツヴァイからまだ熱いフライパンを受け取るといきなりアインの頭を叩く。

「お師匠様、いきなり・・・可哀想に」

「部屋で待ってるように言ったのにつまみ食いしてるこいつが悪いのだ」

「てててててっ」

両手で頭を抱えるアイン。

「ヨン、ちょっとパドルを持ってこい」

弟子入り早々、何発もお尻を叩かれて叫び声を上げるアイン。

そしてその様子を怯えた表情で見詰めるツヴァイとドーリー。

ヨンは思った。

旅立ちの予定を延ばした方が賢明かな?

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