ある雨の日の保健室

2010/03/21UP


朝は曇ってはいたが降ってはいなかった。

昼頃に風が吹き始めた。

そして雨。

こんな日は滑って転んじゃう子供が増える。

保険の先生としては考えるべきことが多い。

バタバタバタ

騒がしい足音が聞こえてくる。

身構えていると、ぐしょぬれになった男子が飛び込んできた。

「せんせ、服かしてー」

6年の男の子だ。

どうやら雨の中で遊んでしまったらしい。

「その前にタオルだろ」

大きめのバスタオルを放ってやる。

男の子は服を脱ぎながらタオルで体を拭いていく。
 
あーあ、パンツまでぐしょ濡れじゃないか。

嬉しそうに全裸になるんじゃない。

こいつ精神年齢は低学年と変わらないな。

少しは隠せ。


「困ったな・・・シャツはあるけどズボンが無い。体操服は?」

「持ってない。だから保健室で借りようと思って」

「実はパンツも無いんだ。シャツで隠れるだろ?フルチンで帰るか?」

少し意地悪っぽく言ってやる。

「えーっ、だったら脱いだの絞って穿く」

「だめだ、風邪引くだろ」

「フルチンの方が風邪引く」

ん?

こいつって確か。

「そうだ、お前、この前貸した保健室のパンツを返してないだろ?」

「そうだっけ?」

「確かに貸した」

「・・・あんなの洗濯に出せないよ。学校で漏らしたみたいじゃんか」

「実際、漏らしたんだろ?」

「違うって、ズボンにカレーシチューをこぼしたのっ」

「そういや、ズボンも返してない」

保健室に備えてあるズボンとパンツにはデカデカと学校名を描いたタグが縫い付けら れていてかなり目立つ。

返却忘れを防止する為だ。

ズボンとパンツは主に低学年の子がお漏らししちゃった時の為のもの。

どうやら、母親にお漏らしをしたと思われるのが嫌だったらしい。

「母ちゃんじゃなくって姉ちゃんだよ。

 いつも俺をからかうんだ」

帳簿をめくって記録を探す。

あった。

4年生の時の宿泊研修の時に「おねしょに注意」と特記してある。

つまり、2年ぐらい前まで治ってなかったということだ。

そりゃ、お漏らしパンツなんか穿いて帰ったらからかうだろうな。

少しだけ考えて名案を思いついた。

「忘れ物のブルマあるから」

「女子の体操服?」

「スカートもあるから大丈夫。顔可愛いから黙ってりゃ女に見えるって」

「でも・・・」

「誰かさんがズボンとパンツを返していればちゃんとここにあったんだよな?」

「ううっ・・・」

保険医の立場を利用したちょっとしたお遊び。

宿直室に洗濯機と乾燥機があることは黙っておいた。

「えっと、あいつの家の電話番号は・・・この時間ならお姉ちゃんはもう帰ってるよな」

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