お子様探偵の事件簿2「ウサギとネコの秘密」
問題編

2001/4/5UP

(解説)
 前作から約1年が経過していますが都合により5年生(11歳)から歳を取りません。
 ご了承ください。


「せ、先生……」

 5年3組の誇る名探偵、丸山新は情けそうな声をあげる。

「これはちょっと……」

 新の相棒、祭太一も情けない表情で担任の佐藤先生を見上げる。

「責任取るって言い出したのはお前らの方だぞ」

 佐藤の声は冷たい。

「耳だけでもいいじゃないですか!」

「そうだそうだ!」

「インパクトに欠けるだろ?」

 太一の格好はバニーガール、新はネコ版のキャットガールである。

 いや、男の子だからバニーボーイにキャットボーイと呼ぶべきか。

 本式の衣装ではない。

 ボール紙で造った耳に女子用のスクール水着(去年から職員室にある忘れ物)。

 まだまだ未発達とはいえ股間がモッコリとしていてカッコ悪い。

「…………」
「…………」

 二人はお互いを見詰め合う。

 何となく似合っているのがヤだ。

 でも、話をややこしくした責任を取るって言っちゃったしなあ。

「ほれ、コレ履いていいぞ。そのままじゃ道徳的に問題がありそうだからな」

 佐藤は体操服の短パンを差し出す。

「それからこれ役柄が分かるように」

 首から札をぶら下げさせられる。

『仔猫くん』『白ウサギくん』

 二人は溜息をついた。


 それは、二人がウサギ小屋の当番に当たった日曜日のことだった。

 新は、休日のお楽しみである朝寝坊を満喫していた太一を無慈悲にも玄関の
チャイムで叩き起こし自転車の二人乗りで学校へと向かう。

「ふあ〜、朝飯ぐらい食わせろよな」

 ワザとらしく欠伸をしながら太一が言った。

「いつもギリギリまで寝てて食ってない癖に」

 とペダルを漕ぎながら新が言う。

「最近は3日に一度は食ってる」

「だから体重敷増えるんだよ。お前重いぞ」

「あらたがひ弱なんだよ。飯食ってんのか?」

「俺は早起きなの!」

「食パンくわえて走ったくせに」

「あれは……一回やってみたかったの!」

 遅刻表現のお約束『口にパン』

 だが実際に実行されている姿を目にした物は殆どいない幻の行為である。

「女の子にぶつかって恋が芽生えるもやる気か?」

「中学になったらな!」

 キキキキキ……

 学校に着いたので急停車。

 後ろにまたがっていた太一がつんのめって新にぶつかる。

「あのな、太一のことは嫌いじゃないけど恋が芽生えるのはヤだからな」

 新の言葉に太一は何故か顔を真っ赤にして抗議する。

「コラ!二人乗りも自転車通学も禁止だぞ」

 担任の佐藤だった。

「佐藤先生。なんで居るんですか?」

「俺んちは近所だからな。学校の鍵はいつも俺が開けるんだよ」

「でも今日は日曜ですよ?」

「なんとなく習慣で来てるの!」

「だったら、ウサギ当番やってくれてもいいのに」

 佐藤は、太一にデコピンをくらわせる。

「それじゃ、教育にならんだろ」


 この学校にウサギは居るがニワトリは居ない。

 泣き声が近所迷惑だからだ。

 白いウサギがと黒いウサギが1羽づつの計2羽。

 たったそれだけが学校で買っている動物の全て。

 ところでウサギは1羽,2羽と数えるが、1匹、2匹の方がしっくり来ない?

「えーと、鍵どこだっけ?」

 太一は掃除用具の入った古びた物置の扉を開けようとするが小さな南京錠が
掛かっていて開かない。

「ほら!」

 本来は職員室に返さないといけないのだが、面倒なので昨日の当番から直接
預かっておいたのだ。

「えーと、ロッカーの鍵だろ、ウサギの鍵だろ、あと3つもあるけど?」

「3年前まであったニワトリ小屋の鍵だろ5年前まで使ってた物置の鍵と……
もうひとつ謎の鍵」

「謎って?」

「誰も知らないんだよ」

「それってさ、午前0時ジャストに使うと四次元への扉が開いたりして」

 新は、太一にデコピンをくらわせる。

「古い物置関係で潰しちゃったなんかの鍵だよ」

「なんでそんなことが分かるんだよ?」

「だって、古い物置のと謎の鍵だけメーカーが違うんだ」

「じゃあ、古い物置を午前0時に開ける鍵かもしれない」

「馬鹿、物置の横に掃除用具入れか何かがあったの。昔の卒業アルバムの写真
で確認した」

「な〜んだ」

「そんなだから、太一の推理はいつも間違いだらけなんだよ」

 二人は、ほうきと塵取りを持つとウサギ小屋の小さな南京錠をカチリと外し、
餌の残骸を拾って、散乱した糞を履き取る。

 昨日の当番がサボったのか汚れている。

「この小屋も新しくすればいいのに」

「ウサギが逃げなきゃいいんだよ」

「金網なんかボロボロ……そのうち逃げる」

「逃げたら飼育当番がヒマになる」

 二人でやれば5分も掛からない。


「あれ?谷口何しに来たんだ?」

 二人が新しい餌をやって帰ろうとするとクラスメートの谷口が姿を見せた。

 学校から徒歩3分という好立地に居住するが故に羨望を集めているが、本人
に言わせれば「チャイムや放送が喧しくて嫌」らしい。

「え?今日の当番って僕じゃなかったっけ?」

 谷口はシドロモドロに答える。

「いや、今日は俺達だよ」

「正確には太一が当番!」

「そうだっけ?」

 谷口は何やらコンビニ袋に入れた餌を持参している。

 給食の残りの牛乳に、同じく白身魚のフライ。

「………あのな、ウサギが草食だって知ってるか?」

「谷口、動物の世話したことないだろ?」

「い、いいんだよ。こういうのは気持ちが重要であって形式は問われないんだ」

 仏壇に拝むんじゃあるまいし。

 その時、佐藤先生が4本の缶コーヒーを持って現れた。

「ジャンケンで負けた奴は、コールドな」

「なんで全部、ホットを買って来ないんですか?」

「それじゃ、面白くないだろう。ところでな旧物置の鍵だけ渡してくれるか?」

 3人の子供は怪訝そうな顔を見合わせる。

「なんでですか?」

 鍵を外しながら新が質問する。

「ほら、子供の幽霊が出るって噂があるだろ?」

「あるんですか?」

「あるの!声を聞いたって話が。で、探検とかされると危ないから預かるの。
もっとも隙間だらけだから意味無いかもしれないけどな」

 ピクピク。

 新と太一が反応する。

「言うまでも無いと思うが、ワザワザ丸山と祭が当番の時に回収するワケは、
わかるな?」

 佐藤は、最も探検に行きそうな二人組みに釘を刺しているのだ。

「は〜い」

「分かってます」

 良い子の返事。

「行けってそそのかしてるんじゃなくって逆だからな!今度やったら水バケツ
で廊下に立たせるだけじゃすませないからな」

「どうするんですか?」

「そうだな…全校集会で前に呼び出してパンツめくってお尻を叩こうかな?」

「体罰で教育委員会から文句言われますよ」

「俺は『指導に熱心な先生』で通ってるから大丈夫」

「……詐欺教師」

「ん?なんか言ったか?」

 佐藤は、余計な言葉を発した太一の頭をグリグリとした。


 月曜日。
 黒いウサギが消えた。
 鍵はしっかりと掛かっていた。
 なのに中に居たのは白ウサギだけ。
 幽霊が持っていったんだという噂が流れた。
 


「なあ、なんで幽霊がウサギなんか持っていくんだろ?」

 昼休みの教室。

 何事かが起ると太一が新たに質問するのがいつものパターンだ。

「そりゃあ、単に近くの旧物置で幽霊騒ぎが起ってたからだよ」

「じゃあ黒ウサギは単に盗まれただけ?」

「誰が何の為に?」

「……そうだよな。盗むにしても2匹とも持っていくよな」

「だろ?どうして犯人は黒ウサギだけを持ち去ったのかがポイントなんだよ」

「白ウサギが嫌いだったとか、黒ウサギが美味しいとか?」

 新は頭を抱えた。

「ウサギおいしってのは、追いしって意味であって美味しいじゃないんだぞ」

「知ってるけどさ……」

「大体、ウサギが欲しけりゃ縁日ででもペットショップででも買えば済む」

 ガタッ。

「現場を見に行こう」

「佐藤先生が張ってる。昨日注意されたばかりだし……あの先生なら本気で、
お尻ペンペンぐらい実行するからなあ」

「注意されたのは旧物置とか幽霊事件であってウサギ消失事件じゃない!」

「……その言い訳は通じないだろ。俺に考えがあるからちょっと待てよ」


 5時間目。

 ウサギ小屋は校舎の裏になっていてコッソリと近づいても分からない。

 その昔は煙草を吸う子がいたらしいが昨今の禁煙運動で消滅したらしい。

「いいのかな?授業をサボったりして」

 二人はトイレに行くと言って抜け出してきたのだ。

「見るだけだから5分もあれば充分!」

 新は鼻歌を歌いながら平然としている。

 もう大まかな推理はできあがっているらしい。


「あれ?鍵が開いてる?」

 乱暴者が壊して入ったのを針金で直した跡もある。

 ついでなのか破れていた個所も修理されている。

 中は沢山の靴跡が入り乱れていた。

「こんな乱暴なことしたら現場の意味がないよなあ」

 太一が呟いた。

「可哀想に。ウサギは臆病なのに大勢で押しかけたりするから脅えてるよ。
それに寂しいのも苦手だからまいってる筈なのに」

 新は隅の方で震えていた白ウサギを抱き上げた。

「そうなんだ」

「そんなことより下見ろよ」

「下?犯人の靴跡でも?」

「そんなもんあったとしてもこれだけ踏み荒らしたら分かるわけないよ。靴跡
がいやにクッキリ付いてると思わない?」

「そういえば……」

「全部分かったから急いで教室に帰ろう!」

 ここで問題編は終了です。
 犯人は誰か?
 バレバレですね。登場人物少ないから。
 どうやって冒頭のような展開になるのか妄想してください(笑) 
 

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