和ちゃん

2000/06/25UP

 和姉ちゃんが持ってきたHなビデオ。

 男の人と女の人がソックリな顔をしていた。

 僕らみたいに双子だって設定なんだけど、性別が違うってことはに二卵性なんだろうな。

 でも、それじゃ普通の姉弟と同じぐらいにしか顔は似ない筈だ。

 だったら、姉弟でもいいのにどうして、わざわざ双子なんて設定にするんだろう?

 そう思ったんだけど、12歳と10歳に取ってそのビデオは刺激が強過ぎたみたい。

 ちょっと体がムズムズとしてきちゃった……

 僕らも、大人になったら、ああいうHなことするのかな?



「和ちゃん?」

 それじゃ誰を呼んだのか分からないよ。

 和樹を呼んでるの?

 なんだ、僕か。

 だったら、和史って言ってくれなきゃ。

 えっ?

 そこには一人しかいないじゃないかって?

 そりゃあ、僕と和樹は双子だけどさ、別の人間なんだよ。

 どうして、近所のおばちゃん達は『和ちゃん』って呼ぶんだろう?


 
「そりゃあ、見分けがつかないからだよ」

 僕が愚痴をこぼすと和樹はそう言った。

 そうなんだ。
 僕らは一卵性双生児の中でも特に似てるって
生まれてからの10年間ずっと言われてきた。

 でも、鏡の中の僕は、目も鼻も口も和樹とは全然違う。

 鼻は和樹の方が高いけど、目元は僕の方がキリッとしてる。

 口だって和樹の方が3本も虫歯が多いんだ。

 なのに、どうして似てるっていうんだろう?

「他人から見たら、ソックリ同じ顔なんだよ。僕達って」

「でも……」

「だったら、和史はパッとみて和姉ちゃんの区別が付くか?」

「付くよ!」

「ウソつけ!いっつも間違えてるじゃないか!」

「あれは和姉ちゃんが、ワザと分からないようにしてるからだよ」

「でも、間違えてるじゃないか」

「和樹だって間違えてるじゃないか!」

「だから、僕はソックリだって言ってるんだよ」

 世の中には狙ったようなタイミングで物事が起こることがある。

 部屋のドアが静かに開いて和姉ちゃんが入って来た。

「和姉ちゃん!」

 僕と和樹は同時に叫んでいた。

 そして同時に『しまった』って思った。

 和姉ちゃんは、怖い顔をした。

 僕以上に一緒にされることを嫌がるんだ。

 いつも一緒にいる癖に。



 和子姉ちゃんと和美姉ちゃん。

 僕と和樹の従姉妹で、やっぱり一卵性双生児だ。

 近所のおばちゃん達が『和ちゃん』って呼ぶと僕達4人の中の誰かなんだ。

 和姉ちゃんは、僕より2つも年上で女なんだけど、僕と和樹に似ている。

 順番からすれば逆なんだろうけど。

 あと何年かすれば、和姉ちゃんが女らしくなって、僕と和樹が男らしくなって
全然違うようになるんだろうけど、今のところは『四つ子?』って訊かれるぐらいに似ている。
 


「和樹く〜ん」
「和史く〜ん」

「双子だからってさ〜」
「同じ人間じゃないのって」

 最後に和姉ちゃんはハモる。

「君達が一番よ〜く分かってる筈なのに、どうして同じ名前で呼ぶの?」

 そうなんだ。

 和姉ちゃんは、そう呼ばれることを嫌がる。

 特に僕と和樹がそう呼ぶのを凄く嫌がるんだ。

 でも、和姉ちゃんって僕と和樹以上にソックリなんだ。

 ジックリ見ないと区別が付かないんだもん。

「ごめんなさい」
「ごめんなさい」

 とにかく謝ることにする。

「で、どっちが和樹くんでどっちが和史くんだったっけ?」

 ずっ!

 なんだよ。

 自分達も区別付いてないじゃないか。

 人のことを怒れる立場じゃないよな。

「だって、お尻のホクロぐらいしか違いがないんだもん」

 そう、和樹は右のお尻に、僕は左のお尻に大きなホクロがある。

「いつでも見えるように、穴の空いたズボンとパンツを履いててくればいいのに」

 冗談じゃない。

 そんな恥ずかしい格好ができるもんか。

「お姉ちゃんが作ってあげようか?家庭科習ってるし」

 ば、馬鹿。


 
「ほら、手を頭の後ろで組んで」
「下に降ろしちゃダメよ」

 僕と和樹は、並んで手を頭の後ろで組まされた。

 そして、違うところを見せろって言われてズボンとパンツを取り上げられた。

「へえ、後ろは違うけど前はソックリなんだ」
「お尻だってホクロ以外はソックリだよ」

 僕達は真っ赤になる。

「やっぱり双子だね」
「触ってもいい?」

 だ、ダメだよ。

 お尻のホクロを見て、区別するだけの筈だろ?

「ふふふ…同じように触ったら同じようになるんだね」
「かわいい…」

 や、やめてよ。

 向かい合わせにしないで。

「ふふふ、鏡みたいね」
「ほんと。間にガラスを置いても鏡を置いても同じね」

 和姉ちゃんはおもしろそうに笑う。

「か、和史にこんなの見られたくないよ恥ずかしいよ」
「か、和樹にこんなの見られたくないよ恥ずかしいよ」

 イジられた、おちんちんがムクムクと大きくなって、チョンと触れる。

 うっ。

 鏡の冷たさじゃなくって、お互いの熱い感覚……

「和子が男の子になったみたい」
「和美が男の子になったみたい」

 なんだよ、僕達を身代わりに考えてたんじゃないか。

 ズルイよそんなの。

 僕達だって、お互いに好きだけど相手が同性だから、兄弟だから我慢してるんだぞ。

 和姉ちゃんだって同じなんだろ?

 いつか4人で見たビデオ。

 僕らみたいにソックリな顔をした男の人と女の人がHなことするビデオ。

 あれを見た時から、自分の分身に同じことをしてみたかったんだ。
 
 和子、和史、和美、和樹。

 僕らは、分身やイトコや時には自分の名前を叫んだ。

 名前は、ぐちゃぐちゃで誰が誰の名前なんだか分からない。

 まとめて『和ちゃん』って呼ばれてるより酷いことになってる。

 でも、僕らはそんな状態が嬉しかった。



 僕らは時々、コッソリと集まって素っ裸でふざけっこしている。

 勿論、両親や伯父さん達にはナイショ。

 和樹と結婚するワケにはいかないけど、和姉ちゃんとだったら結婚できる。

 和姉ちゃんもそう思ってるみたい。

 あのね…

 もう約束しちゃったんだ。

 僕らは四人一組でないとダメなんだ。

 でも「和ちゃん」じゃなくってちゃんと名前を呼んでよね。

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