冬のピチピチ半ズボン

2000/01/20UP

 お兄ちゃんの荷物の中から、その古びていて素敵な半ズボンのジーンズを
見つけた。


「ねえ、お兄ちゃん?これもらってもいい?」


 ぼくは、ちょっとモジモジしながら訊いてみた。

「あれ?そんなもん、まだ残ってたのか。懐かしいなあ、もちろん高広が欲しい
っていうんならやるよ」


 やったあ。

 お兄ちゃんは絶対に、ぼくにくれるってことは分ってたけど、口に出して言
ってもらうとヤッパリうれしい。
 
 ぼくは、その半ズボンのジーンズをギュっと抱きしめた。

 
 いつも穿いている半ズボンより丈が短い、お兄ちゃんは、これが方が本当の
半ズボンで、いつもの方のことは中ズボンなんて変な呼び方をする。

 
 古びて色が褪せちゃった紺色で、生地も薄くなっちゃってる。

 
 でも、こんなの絶対にお店じゃ買えない。

 
 学校に穿いていったら、みんなカッコいいって言うに決まってる。


「なあ、こんな古ぼけたジーパンがそんなに嬉しいのか?俺が小学生の頃に穿

き古した奴だぞ」

「うん、だって古びててカッコいいじゃないか!」

 ジーンズは他のズボンと違って穿けば穿くほど味が出てきてカッコよくなる
んだって、テレビの人も言ってた。

「ふーん、そんなもんかな。でも初めてだな、お前が俺のお下がりを貰って喜
ぶなんて」

「そんなことないよ。テレビだってビデオだって大事にしてるよ」

「高いもんばっかりじゃないか」

「だからさあ、あそこのプレステちょうだい。どうせプレステ2買うんでしょ?」

「あー、分った。お前にやるから、荷物を片付けるの手伝ってくれよ」

「うん!」

 ラッキー、ズボンだけじゃなくってプレステまで貰っちゃった。
 
 ぼくとお兄ちゃんは年が離れている。

 クラスメイトのお父さんの中には、お兄ちゃんより年下の人がいるぐらいに
年が離れている。

 でも、ぼくに取っては大事なお兄ちゃんだ。

 今度、会社の転勤で、引っ越すんで今は荷物の整理をしてるところ。

 お兄ちゃんが居なくなっちゃうのは寂しいけど、ぼくも自立しなくちゃね。



「ねえ、ねえったら、買ってよお」

 ぼくはお母さんにおねだりしていた。

「あんた、この間パンツはトランクスの方が格好良いとか言って買い換えたば
っかりじゃないの」

「だって、この半ズボンにトランクスだと横ちんになちゃってカッコ悪いんだもん、
普段はちゃんとトランクス穿くからさあ」


 そんな騒ぎを聞きつけて、お兄ちゃんが2階から降りてきた。

「何の騒ぎだ?」

「あ、お兄ちゃん。お母さんにブリーフ買ってって頼んでたの」

「ブリーフって下着の?」

「うん」

「この間、ブリーフなんて子供っぽいとか言ってトランクスにしたんじゃないのか?」

「だって…」


「ブリーフなんて子供っぽいとか言いながら、ピカチュウ柄のトランクスなんか
欲しがるんだからな」


 ピカチュウは買って貰えなかった。

 何故か大人用のサイズしか売ってなかったからだ。

 ブリーフのは子供用だったんだけど幼稚園児みたいな気がしたし。

「ま、いんじゃないの」

 えっ?

 ちょっと意外だった。

 お兄ちゃんはワガママだって怒ると思ったのに。

「ちょっと、また高広を甘やかす」

「母さん、男の子の下着なんか3枚もあればローテーションで足りるんだから
俺が買ってやるよ。それぐらい」

 翌日、ぼくはウキウキとしながら、久し振りにブリーフを穿いて、お兄ちゃんから
貰った半ズボンを穿いた。


 ゆったりとしたトランクスとハーフパンツに慣れちゃってたから、ちょっと窮屈だけど、
それぐらいは我慢しなくちゃオシャレはできない。


 思った通り、ぼくによく似合っていた。

 …と思う。
 
 でもちょっとだけ誤算があった。

 やっぱり3学期って冬なんだ。

 半ズボンだと寒い。

 ぼくは急いで家に帰ることにした。

「オシッコしたくなっちゃった…」

 寒いんでチカくなったんだ。きっと。

 立ちしょんで済ませちゃおうかな…でも家はすぐそこだし。

 前を押さえてゆっくりと歩けば何とかなる。

 そう思った。

 焦れば焦るほど、オシッコに行きたくなった。

「もっもうダメ、あああ…」

 一気に股間の力が抜けた。

 妙な開放感があって、それからパンツの中がもわっと温かくなるとすぐにじとっと
して冷たくなる。


 やっちゃった。

 家は、そこに見えてるのに。

 ぼくは、情けなくて涙が出そうだった。

 慌ててズボンに手をやる。

 あれ?

 濡れてない。

 そうか、ちょっと漏らしただけなんだ。

 でも、ぼくは甘かった。

 チャックの辺りにポツっと小さなシミが出てきた。

 ピッタリと体に密着したブリーフとジーンズの組み合わせだと余裕がないから、
すぐに外に出ちゃうんだ!


 もういいや。

 誰も居ないし、ここでやっちゃおう。

 だが、寒さにかじかんだ手と古くなったチャックは簡単には下りてくれない。

 ぼくは、股間からつーっと流れてくるオシッコと色の濃い部分が広がってくる
ジーンズに顔を赤くしながら急いで家の中へ飛び込んだ。

 
 家には誰も居なかった。 

 良かった。

 ぼくは服を着たままで、お風呂場に入った。

 体にピッタリと貼りついたズボンとパンツは脱ぎにくかった。

 もうすぐ6年生だっていうのに、おもらしなんかしちゃった…

 がっくりして股間を眺める。

 オシッコを出し切ったそれは今はダランとしていた。

「だだいまー!」

 玄関で声がした。

 お兄ちゃんが帰って来たんだ。

「あれ?高広?何やってんだ」

 お兄ちゃんは、あっと間に情けないカッコのぼくを見付けてしまった。

「ぷっ!あったかくして行かないからだぞ」

 それから、まるで赤ちゃんみたいに扱われて新しいパンツ、今度はトランクスと、
長ズボンを穿かせてもらった。


 そして最後に、意味不明なことを言ったんだ。

「高広が、風呂場でコッソリパンツを洗うなんてまだ2,3年先だと思ってたけ どな。
ま、出てくるもんが違ったけど」

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