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ひさご 〜卵にかける匠の技〜


ひさご外観
蕎麦屋なのに親子丼で有名。
そんな一風変わった東山のひさごは、京都に数ある飲食店の中でもこれまで最も行きたかった店の一つである。と言うのも、わたしは一人暮らしの貧乏生活におされて、やむにやまれずそれまで全くしたことのなかった「料理」というものを覚え始めたころ、まず最初に作ったのが親子丼だったというほど、これが大の好物なのである。たかが卵と鶏を使っただけの料理に850円という法外な料金をとるこの店は、当然わたしのキワを超えてはいるけれども、親子丼だけで名を売る珍しさにも惹かれて、とうとう挑戦の日を迎えることとなった。無論、まずけりゃ死刑の宣告を下してやる心づもりである。

スタートは悪かった。
この日たまたま所持していたガイドブックの地図があまり詳しくなかったせいで、お目当ての店を発見するまでに東山の大路小路を30分以上もうろつくことになった――京都に住んでいる人間ですらこうなのだから、旅行者は必ず入念な下調べをしておくべきだろう(あとから思えば、八坂神社を起点にすればぜんぜん問題ない)。しぜん、わたしのイライラはつのり、キレる5秒前のカウントダウンが始まったそのとき、間一髪、ふっと目の前に茶色いのれんが現れた。発見した悦びよりも、こちらはすでに、よほどうまくなければ絶対ごみ箱に入れてやる!くらいの刺々しい気持ちである。ひさごにとってみれば、身に覚えのない怨みによってひどく不利な状況下で評価が開始されたわけである。

この店、外観こそ東山の街並みにふさわしい風情だが、実際のれんをくぐってみると、嵐山のメインストリートにあるような観光客目当ての店に似た、これといってこだわりの見えないつくりである。テーブルの上にあるメニューも普通の蕎麦屋と同じで味気なく、京都らしく和紙を使用した「おしながき」などを想像していたわたしはのっけからヤラレた感じがした。しかも、客の目から見える位置に茶の間があり、生活が見え見えで、この日もしきりに赤ん坊を囃していた店の人間はなかなかわたしたちに気づいてくれなかった。
ここでわたしの怒りがさらにふくれあがったのかというと、そうではない。不思議なことに、東山にあるというだけで、心のどこかでちょっと気取った店を想像していたわたしは、かえってこのアットホームな雰囲気にくつろぎを覚えたのである。・・・・・・ここは修学旅行生ですら気軽に入れる店だ。

そろそろ本題に入ろう。注文したのはもちろん、宿願の親子丼だ。
ぱっと見て最初の印象は、いい値段をとっている割には量が中途半端だということ。茶碗よりは大きく、どんぶりと言うには一回りほど小さい器に盛られた飯は、まさに、女性には多すぎ、男性にはものたりない杓子加減。「もう少し盛ってくれよ〜」とは思ったが、瞬間頭の中で、大盛りを頼めば1000円ちかくになってしまうかも知れないという計算を打ち出してみると、覚えず背筋に寒気を感じた(笑)

いざ箸をつけてみて・・・・・・ようやく悲願がかなうかという刹那、わたしはまたしても「ヤラレた!」と痛感することになった。
実際、家庭でもできる料理を外で食べようとする時には、意識、無意識に関わらず、誰しも母の手料理と比べずにはいられまい。特に自ら料理をする人は、どうしたって自分で作れるかどうかを考えてしまうだろう。わたしもその例に漏れなかったが、ここの親子丼は、自分では絶対につくり得ない傑物、とすぐさま思い知らされた。料理をしない人にはわかるまいが、うまい親子丼を志して失敗に失敗を重ね、これまでついぞ到達できずにいる味を、さらりと目の前に出された観なのである――これはわたしにとってみれば、完全なる敗北だ。
火を通すのがこれ以上長くても短くてもいけない、卵の絶妙な煮え具合。
それだけで、親子丼は7割方決まってしまう。高い料金を払っているのだから、鶏肉や野菜にこだわりがあるのは当たり前であるし(丹波の地鶏使用)、いやむしろ、食材がどんなにいかがわしくったってこの卵の技の前では大した悪要素にもならないだろう。また、汁の方もとてつもなくうまいそもそも、プロの蕎麦屋が鰹と昆布で入念にとったというだし汁に、醤油とみりんとで適当に味つけするような家庭の味が追いつけようはずがない。本当に、憎らしいほどのうまさなのである(他に木の葉丼も挑戦したが、こちらも椎茸にしっかりダシが染み込んでいて美味しかった)。

★★★★★★★★★★
ボリューム
★★★★★
雰囲気
★★★★★★
サービス
★★★★★
料金
★★★★★★★
総合
33点
交通
★★★★★★★★★
管理人
利用率
★★★★★★★
→Yahooグルメ
ひさご
上の記述から、東山ひさごは、料金のキワは超えていても風流店として大推薦できる店だということがおわかりいただけるだろう。飛び抜けた個性を持つ店なら、たとえ他の面でかなり劣っていても十分に評価しようというのがわたしのスタンスだ。例えば、表の「値段」の星の数を見ていただきたい。親子丼で850円なら、普通は「評価ナシ(星ゼロ)=ごみ箱入り」となるところである。が、この店の場合、そんなキワなど気にしていてはもったいない!というほど料理の評価が高いので、評価ナシを免れているのである。結局星7つをつけたが、料理と値段の釣り合いこそがこのカテゴリの命なので、「この味で850円なら十分納得」という気持ちをしっかり反映させた。

最後に、思わずうぷぷ、と笑ってしまったエピソードを一つ。
わたしとつれは、ボウズ(客が一人もいない状態)の店に入ると必ず客を呼ぶという習性があるのだが、この日も、最初はわたしたちだけだったのにあれよあれよと言う間に満席になってしまい、にわかに店内が忙しくなった。果して何人が丼ものを頼むのかと思いつつ、わたしは他のテーブルの注文にじっと聞き耳をたてていたのだが、なんとなんと、10人以上の人間がいて、全員が全員、丼ものを頼んだのである。
「蕎麦屋なのに〜」

○追加情報1
左の表にあった「料理」のカテゴリを、「味」と「ボリューム」に分けました。文章はもとのままですので、内容にすこし食い違いが出てくるかも知れません。[10/Nov/99]
○追加情報2
味にバラつきがある様子。要注意![23/Nov/2001]
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