■ 船はし屋 オ・グルニエ・ドール
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船はし屋


船はし屋外観
駄菓子屋ほど割の合わない商売は無いと思う。 ひとつひとつの単価が安い割に、そこそこボリュームがあって陳列に場所を食うから、1スペースあたりの売り上げ額など微々たるものだ。だから、近ごろはスーパーやコンビニなどでも客寄せに昔なつかしの駄菓子を並べる店はあるけれども、菓子10個セットのパックだったり、その昔駄菓子屋で10円で売っていたガムを、品こそ同じでも容量の多い30円ヴァージョンで代替したりと、それぞれの環境に順応した新しい形での販売方法が見うけられる。 しかし、それではダメだ。それでは駄菓子を買う楽しみのうち、20パーセントも楽しんだことにはならない。店のおばちゃんとの他愛ないコミュニケーション。そして、100円硬貨一枚で山盛りの菓子が買えるがなければ、少年少女の小さく欲張りな胸は満たされない。いやむしろ、少年少女にとっての駄菓子屋とは、夢を買う場所ではなかったか。

繁華街・寺町四条を下がった電気屋ゾーンのまっただ中にこの店はある。
目の前の細い通りには、四条へ出ようとする車が常に渋滞をつくり、その排気ガスのためだろう、心なしか空気が曇って見える。お世辞にも環境がいいとは言えない場所なのだ。しかも、休日などは渋滞の上に自転車・バイクの違法駐輪、電気屋街へ通う客の列などでごったがえし、しぜん運転は荒くなる、クラクションがけたたましく鳴る・・・荒廃した人気(じんき)があたりを漂っている。しかし、時間が止まってしまったようなこの店の中では、大人も子供もみな等しく少年少女の純真な面差しに戻って、あたりの喧噪とは相容れない鮮やかな対照を見せている。狭い店内を楽しげに動きまわる少年の豊かな表情を眺めるにつけ、悲しむべきは、眉を吊り上げ必要以上にエンジンをふかし、何かに追われるようにして前をゆき過ぎる大人たちの、なんと暗く霞んだ生気の無さだろう。

船はし屋は道楽で駄菓子を商っている店ではない。
その品揃え。その菓子の種類の豊富さ。いずれもコンビニやスーパーなど大資本でも及ばぬところである。ここは単なる懐かしさを売り物にする世の風潮にも惑わされることなく、ずっと夢を商いつづけてきた空間なのだ。
それが証拠に見るがいい。この店でもっとも少年らしい顔つきをしている者は、まぎれもない店主その人なのである。

オ・グルニエ・ドール


オ・グルニエ・ドール
外観
雑誌のニューオープンの記事に目を通してみると、よくもまあ、毎月毎月これだけの店が増えつづけているものだと驚かされるだろう。しかしそれは、同じ数だけつぶれている店があるという事実の証明でもあることを忘れてはならない。21世紀最初の年、ちまたには多くの店が誕生し、多くの店が消えていった。低レベルなエイジアンブーム・カフェブームにあやかり、これといった自己主張もない、似たような店が次々と京都の町並みに軒をつらねてゆくなかで、清かな湧き水のようにフッと湧いて出たひとつの良店がある。――『オ・グルニエ・ドール』だ。

この店の職人が、フランスでどれほどの修行を積んだ腕前なのか、これまでどれほど名の知れた店をとりしきってきたのか、そんなことはどうでもいい。錦をゆく通行人が、できたばかりで名も知られていないこの店へふらりと立ち寄ったとき、洋菓子の世界では著名なはずのこの職人は、客にとって見習いパティシエ以下の存在にすぎない。客は菓子をひとくち口に含んでみたとき、良かれ悪しかれ、初めて職人の実力を思い知るものである。
食べてみればすべてがわかる。どのような肩書も、どのような経歴も、一個の作品の前ではなにほどの説得力も持たないのだ。

この店は席数が少ないため、テイクアウトが基本である。よって「すぐれみせ」でとりあげたわけだが、運が好ければ(客が少なければ)イートインも可能だろう。オープン時、誌面を華々しく飾った店とは思われないほど小ザッパリした印象で、入ってすぐに目に飛び込んでくるショーケースには彩りの好い菓子が飾られ、たちまち客を魅了し尽してしまうに違いない。私たちはたまたまあいていたソファ席に陣取った。

まずはテーブルの上のナッツがあたたかくお出迎え。気の利いた挨拶に、私たちはナッツをかじりつついやでも気を好くせざるを得なかった。そこへ畳みかけるように、店員さんの満面の笑顔。私たちはいちごショートとプリンを注文し、いずれも納得のウマさだったわけだが、「もう一品オススメを」と言って持ってきてくれた「松の実タルト」がすごかった。意外や意外、コレがいかにも癖になりそうな、何とも言えない深い味わいなのである。こういうものは、ちまたのケーキ屋が真似しようとしてもできるような代物ではない。私たちはこのとき、職人の舌と腕の確かさを明らかに思い知ったのである。

PS:たまたま暇な時間帯だったこともあって、私たちは試食までさせてもらい大感激のティータイムを過ごせた。普通に食べていたつもりだったが、お店を出るとき「同業者の方ですか?」と言われてしまい、はしゃぎすぎたのをチョットだけ反省していたりする…。
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