
メイプルツリー外観 |
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この、京都を代表する良店を扱おうとするとき、メスを入れる角度によってはさまざまな見解が生み出されるだろう。雑誌一つをとってみても、それははっきりとうかがい知られる。例えば、メイプルツリーをランチの有名な店として紹介する記事もあれば、クレープが美味しい店として切り込む書もある。いずれも決して間違いではなく、わたしも共感を覚える点を少なからず持ち合わせるが、そういうスタンスでは、この店の本当の良さを語り尽くすことはできないだろう。
極言するなら、料理や珈琲、紅茶のうまい店なら
他にいくらでもあるのだ。もし、それだけしか能のない店なら、全体なにが嬉しくて梨木通り(御所の東隣の細道)などという薄暗い通りに沿う、こんな不便な店を勧めたりするだろう――。そうではあるまい。一度でも訪れたことのある人にはきっとすぐに合点がいくはずだ。この店を評すに一番しっくりとくる言葉は、
「優雅」の二タ文字であると。
優雅なティータイムをすごしたい、とは、誰しも憧れるところである。これを実現するには、ひとにぎりの良質な喫茶店や菓子店の存在を頭にたたき込んでおかなければならない。いやなにも、たくさん覚える必要などないのだ。自分の普段の行動範囲内に、1、2軒の良店のストックがあれば十分である。
わたしの主な行動範囲は河原町界隈の雑多な繁華街だから、あのあたりをひとまず例に出すと、珈琲一杯の値段が半分で済むからといって、全国にその名を轟かせる「ソワレ(ケーキ・カフェ参照)」や「築地」などの名店をやり過ごし、毎度さわがしいドトールや神戸屋へはした金を落としているうちは、とうてい「優雅」など遠い夢である。無論、待ち合わせや単なる時間つぶしだけに利用する場合、わたしもしばしばこれらの「お安い店」のお世話になるわけだが、あくまで「優雅」にこだわりたい日には決して近寄ることはない。特に、美味しいランチを食べたあと、その余韻を楽しむ場所として。また、まずい料理にあたってしまったあと、それを慰める場所として。雰囲気の好い喫茶店の存在は、食事のしめくくりには不可欠なのである。もちろん、最高の雰囲気だけでなく、最高のケーキ・最高のデザートの用意もあれば無敵の店になろうが、わたしはかつてそこまでの店には出くわしたことがないので、
「餅は餅屋」の無難な策をとる。
さて、わたしの「メイプルツリー利用法」は、河原町界隈で昼飯を済まし、食後の散歩がてらあちこちの雑貨屋を覗きつつ御所まで歩き、ほどよい具合に疲れてきたところでちょうどこの店を見出す、といった形が多い。そこではまず、和風の庭園が長旅の労をねぎらってくれる。芝があり、石があり、大きな紅葉の樹があり、ひとすじの細い流れがチラチラとはしっている。その景色は目に優しく、お世辞にも絶賛してよい庭のひとつには数えられないけれども、御所に接するように位置する店として、千年来の王城の品格を損なわないための配慮・良識にはかなり好感が持てる。この敷地内に、ほぼ全面ガラス張りの店構えを見せるのがメイプルツリーだ。
わたしはこの店の雰囲気を高く評価するのだが、それは河原町の「築地」とは全く異なる視点からである。むしろ、両者は対角に位置する店と言って良く、美しく古めかしい調度品や装飾によって、完璧なまでに別世界を作りあげている「築地」に比べて、メイプルツリーの方は一見
なんのこだわりも持たないかのようなたたずまいである。店内は黒の統一が計られているものの、テーブルや椅子、内装など、一つ一つに目を向けてみたところで面白みのかけらもないのだ。だが、想い出して欲しい。わたしはさきほど、「ガラス張りの店構え」と確かに伝えたはずである。そうだ、この店は、四季折々の庭園の景色をそのままに取り入れて(あるいは店そのものがその中にとけ込んで)、限られているはずの狭い庭園の奥に、無限に開かれた窓のような存在なのだ。決して庭園の美しさだけを論じてはいけない。この店の持つ、
無限の開放感こそが、訪れる人たちの心や会話を弾ませる本当の秘訣なのである。そう思って見直してみれば、店内の目立たない装飾も謂われのないことではあるまい。かりに、真っ赤なテー
ブルが配置してあったり、個性的な絵などが飾ってあったとしたらどうだろう?それは窓の外の景色にそぐわないばかりか、せっかくの景観をけがしてしまう悪結果を招くだけだろう。――この店は
恐ろしいまでの計算の上に成り立っている!
雰囲気について思うところはもっとあるのだが、こんな狭い枠内ではとうてい語りつくせないので、またの機会にしよう。以下、細かく見ていく。
この店はクレープがうまい。そして、珈琲も紅茶もうまい。が、料金が相応に高いのと、この項で最初に述べた通りダントツに美味しいわけでもないので、それほど高くは評価しなかった。また、四季折々の良さ、とは言え、ガラス張りだけあってさすがに冬は肌寒い気がする。庭に重なった落ち葉も、どことなくみじめだ。
緑の美しい時季に行くことを強くおすすめしたい。壁はよく掃除されているが、ガラス天井はいつ行っても汚いままなのが気に障る(それを差し引いても、雰囲気の圧倒的な評価に変化はないが)。店員さんの態度はすこぶる良く、安心してくつろぐことができ、のどかで優雅なティータイムを過ごすには絶好の場所である。
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味
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★★★★★★★
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ボリューム
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★★★★★★★
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雰囲気
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★★★★★★★★★★
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サービス
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★★★★★★★★★★
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料金
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★★★★★★
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総合
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40点
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交通
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★★★★★★★
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管理人
利用率
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★★★★★★
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最後に、サービスを満点にした理由を述べよう。それはわたしが初めてこの店を訪れたときの想い出だ。
御所周辺を散策中、不意の雨で行き場に困ったことがあった。近くには雨宿りできるような店もなく、仕方なしに連れと二人で細い道を駆け足で走っていると、突然、かねて名前だけは知っていたメイプルツリーの看板が見えた。「溺れる者は――」の諺にもあるとおり、一も二もなくここへ入ろうということになった。
降り出してからそれほど時間が経っていなかったせいもあって、ふたりはほとんど濡れずにすんだ。しかし、せっかくの楽しいひとときに、文字通り水を差されて、気分の方は双方すでに、取り返しのつかないほどブルーである。雨は徐々に強さを増していくように見えたので、よけいに心細かった。
ところがだ。席についてふと窓の外の景色を眺めると、ふり煙る雨の庭がとても美しい。梅雨時だったから、みずみずしい緑も心を洗うようなすがすがしさである。ぼんやり「いい眺めだなぁ〜」などと思っていると、メニューに「バナナクレープ」と「チョコクレープ」を目ざとく見出した連れが、「チョコバナナクレープにしてもらえませんか?」と店員に頼んでいる。その店員は一瞬とまどったようだったが、すぐに笑顔を見せて「やってみますね」と快く了解してくれた。
思えばその時点ですでに、わたしたちはメイプルツリーの術中にはまっていたのだ。
「感じの好い店員さんだね」から始まり、庭の風情を讃えるやら、ガラス張りの壁を褒めるやら、会話のトーンは次第に高まりだし、重ねて、特別注文の「チョコバナナクレープ」がかなり美味しかったものだから、さっきまでシオシオだったのが嘘のように、もう両手を打ってのおおはしゃぎだ。しまいには、「ちょっとぐらい濡れてもいっかー!」と、雨空に挑んでいく意気さえあがってきて、もはやなんの心配もいらないというところまで復活してしきた。なにしろ、雨が降り出す前よりも、4、50分程度の休息を終えたあと、店の扉を開け、これから雨の中へ切り込んでいこうとする時のほうが、二人ともよほど元気だったのだ。
これ以上書くとあまりに出来すぎな話と思われるかも知れないが、つづきがある。やや小降りになってきたのを潮に店を出たのだが、そのとき、一時はだいぶ強く降っていた雨がパタリと止んでいたのには、誰より当事者が一番驚いたのである。
どんなに有名な店も、初めて訪れる者にとっては「一期一会」の縁だ。いつもはすばらしい店なのに、その日たまたま接客が悪かったとか、たまたま料理の味が薄かったとか、そんな理由は言い訳にもならない。本物のサービスうんぬんとは、生涯にたった一度きりしかないかもしれない縁を、いかに大切に扱ってくれるかを言うのである。わたしがメイプルツリーを推したくなる根拠も、どうやらそのあたりにあるようだ。